2013年5月7日火曜日

The Gunner's Dream

先月4月末に驚きの音源が発掘されました。それはPink Floydを脱退したRoger Watersが、あのEric Claptonをギターに迎えて制作したソロアルバム『ヒッチハイクの賛否両論』のツアーのライブ音源で、1984年7月26日のアメリカはシカゴ公演をSBD音源で完全に収録したものになります。1984年のRoger Watersのソロツアーは、今までAUD録音の音源はいくつも存在していたのですが、SBD音源は今回が初めての登場になるのではと思われます。また、クラプトンがツアーに帯同していたのは1984年までで、翌1985年からの公演については、SBD音源は存在していたものの、クラプトンが参加していないので、今回の音源の登場の重要性がよりお分かりいただけるかと思います笑

当然のごとく、大手ブートレーベルからこの音源が次々と発売されていきました。自分もその中の一つを購入しましたので今日はそのレビューでもしてみたいと思います。



「The Gunner's Dream」  2CD  録音:SBD/A+

Disc 1
1, Intro.
2, Set The Controls For The Heart Of The Sun
3, Money
4, If
5, Welcome To The Machine
6, Have A Cigar
7, Wish You Were Here
8, Pigs On The Wing
9, In The Flesh
10, Nobody Home
11, Hey You
12, The Gunner's Dream

Disc 2
1, 4:30 AM (Apparently They Were Travelling Abroad)
2, 4:33 AM (Running Shoes)
3, 4:37 AM (Arabs With Knives And West German Skies)
4, 4:39 AM (For The First Time Today Part 2)
5, 4:41 AM (Sexual Revolution)
6, 4:47 AM (The Remains Of Our Love)
7, 4:50 AM (Go Fishing)
8, 4:56 AM (For The First Time Today Part 1)
9, 4:58 AM (Dunroamin, Duncarin, Dunlivin)
10, 5:01 AM (The Pros And Cons Of Hitch Hiking)
11, 5:06 AM (Every Strangers Eyes)
12, 5:11 AM (The Moment Of Clarity)
13, Band Introductions
14, Brain Damage
15, Eclipse


僕が購入したのは西新宿のLHで、フロイド専門レーベルであるSigmaレーベルがリリースした『The Gunner's Dream』というタイトルです。まずはその業者の宣伝文から↓。

「ロジャー・ウォーターズがソロとして初めて実施した1984年のツアーから、遂にステレオ・サウンドボードソースが流出しました!ピンク・フロイドの頭脳 ロジャー・ウォーターズの初ソロ・ツアーと言えば、そのプロモート対象となったソロ・アルバム『The Pros And Cons Of Hitch Hiking』同様、友人であるエリック・クラプトンが全面参加したことで当時大きな話題を提供しました。当店でもこのツアーの高音質ステレオ・オーディエンスタイトルをいくつもリリースし、好評を博してまいりました。本ツアーで聴かれたクラプトンのプレイは、全公演で時には主役のロジャーを食ってしまうほどのインパクトを与えた素晴らしいものでしたので、クラプトンマニアにも今なお本ツアーの人気は高い状況です。このたび、突如ネット上にこのツアーから 7月26日のシカゴ公演のステレオ・サウンドボードの完全収録ソースがアップされました。関係者・スタッフからの流出としか思えないものですが、それを逸早くプレスCDでリリースします!さらに本盤には、独自のプロ級マスタリングが施されていることが大きなアドヴァンテージとなっています。ネット上のマスターは元々高音質ながら、若干中音域寄りの音でしたので、中音域を少し落とし、高音域を僅かに上げるマスタリングを施すことによってクリアさが増し、ボー カルが前面に押し出されて各楽器の分離が良くなりました。特にドラムのタムとスネアの音にメリハリがついていることがお判りいただけるでしょう。オフィシャル盤としてリリースされても不思議ではない、極上のサウンドクオリティを獲得しています。ネット音源そのままでは味わえない、当店独自のマスタリング によるグレードアップ盤は、是非とも音に厳しいマニアの方にこそ聴いていただきたいものです。また、マニアならずとも、こよなくピンク・フロイド、ロジャー・ウォータース、エリック・クラプトンの音楽を愛するファンの方々にも聴いていただければきっとご満足いただける内容になっています。このツアーは 第一部がフロイド・ナンバーのオンパレード、第二部が『The Pros And Cons Of Hitch Hiking』の完全再現となっていました。そしてアンコールには、あの『狂気』からのBrain Damage / Eclipseで大団円を迎えるという構成でした。初めて聴くサウンドボードの本盤では、大編成のバックバンドの楽器の音ひとつ一つが粒立ち、ステレオ感の拡がりとともに、この壮大なスケールのパフォーマンスが余すところなく捉えられています。ソロ、オブリガート、スライド・プレイと、ステージ全編におい て多彩な活躍でサポートするクラプトンの演奏の中でも珍しいのは、Wish You Were Hereでローランドのギター・シンセサイザーを使用していたことでしょう。彼はこれに触発されて、翌年の「ビハインド・ザ・サン・ツアー」での Never Make You Cryでもこの楽器、このトーンを流用しました。バックバンドのメンバーは、元キング・クリムゾンのメル・コリンズ、名ドラマー、アンディ・ニューマーク、クィーヴァー、レイジー・レイサーなど古参のブリティッシュ・ロックバンドに在籍した経歴を持つギタリスト、ティム・レンウィックなどを含む実力派の 人たちで固められていました。会場の盛り上がりもピークに達しており、オープニングナンバー終了後には、ロジャーが「No more fireworks please.(花火はやめてくれるかな。)」とアナウンスしているほどです。徹底したリハーサルとメンバーの技量による安定感溢れる演奏をバックに、ロジャーが自分の実力をフルに発揮した伝説のツアーを最高の音質で聴ける本盤は、全フロイドファン、クラプトンファン必携のタイトルです。限定プレスCDゆえ、数に限りがございますので、お早めのオーダーをお願いします。」


 まず音質ですが、宣伝文にある通り、流出ものとは思えない素晴らしい高音質SBD音源です。流出もののライン音源にありがちな、オーディエンスの歓声が小さくて演奏の音もこもりがち、ということは一切ありません。さすがに演奏中の歓声は小さめですが、曲間の盛り上がりは凄まじいです。また、各楽器やボーカルの出力レベルもクリアで迫力があります。曲中に流れるSE(サウンド・エフェクト)が左右に行き来する具合もばっちり捉えられていますし、ブラスやドラム、キーボード、女性コーラスなども音圧十分と言えます。ここまで完璧と言っていい音のバランスから察すると、業者の宣伝文にある通り、本当に内部関係者から流出したものかもしれませんね。

バンドの演奏も素晴らしいです。ライブ構成は、大きく分けて3つの部から構成されています。まず第一部でPink Floyd時代の曲を演奏し、その後20分の休憩を挟んだ後、第二部でソロアルバム『ヒッチハイクの賛否両論』の全曲再現ライブが行われます。そしてその後アンコールで再びPink Floydの曲から、名盤『狂気』に収録されている「Brain Damage」と「Eclipse」の2曲を演奏してライブを〆るといった流れです。
まずあのクラプトンがPink Floydの曲を弾いていること自体が貴重ですが、きちんと自分のものにしてみせています。Ifの曲中で聴かれる彼のアコギソロはソロ途中でオーディエンスの大歓声が上がるほど、素晴らしいプレイです。このライブ最初のハイライトと言って良いでしょうね。また、Wish You Were Hereでは、曲中に彼のギターシンセサイザーを使用したソロがあり、そのために曲の構成を原曲と変えています。あれだけ自分の曲に執拗なこだわりを見せるロジャーが、構成を変更してアレンジを施させているのですから、これはなかなか面白いドキュメントです。また同曲では、イントロと曲中にPink Floydの曲「Paranoid Eyes」のイントロを彷彿とさせるピアノフレーズが付け加えられているのも興味深いポイントでしょう。

クラプトンがフィーチャーされがちですが、やっぱりこのツアーはRoger Watersのソロツアー。主役をきちんとはっています。フロイド時代では考えられなかったようなテンションの高さです。ちょっと怖いくらい笑
Ifの演奏前には、「次の曲はとても・・・、とても静かな曲なんだ」と静かに語りながら演奏を始めます。またIn The Fleshでは、いつも以上に狂気じみたハイテンションキャラを炸裂させ、曲前に「黙れ!!!」とオーディエンスに叫んでいます。歌詞のキャラクターを演じるという意味でかなり役に入ってますね。第二部の『ヒッチハイクの賛否両論』でも、過度気味な歌唱表現がいかにも彼らしいです。まるでささやくような歌い方からスクリームのような甲高い叫び声まで、気持ち悪さと迫力がいつもより2割増です笑
そしてベースのプレイもフロイド時代よりノってますね。In The Fleshなどではフロイド時代にはやらなかった、ベースのトレモロピッキングをしたりしていてご機嫌です。

第二部の『ヒッチハイクの賛否両論』全曲再現演奏については、アルバム制作にクラプトンが参加していたことから彼も慣れていたのか、全体的に第一部よりもさらに引き締まった演奏を聴く事が出来ます。ロジャーのボーカルと女性コーラスが紡ぐ旋律に、クラプトンのブルージーなギターと、King Crimsonにも所属していたメル・コリンズのサックスが綺麗に入り込んできます。「4:33 AM (Running Shoes)」、「4:50 AM (Go Fishing)」、「5:01 AM (The Pros And Cons Of Hitch Hiking)」などは特に聴きごたえがあります。歴代のフロイドのアルバムと比べて酷評されがちなこのアルバムですが、歴史的名盤とまでは行かなくとも十分良作だと自分は思うんですがね・・・。

アンコールの「Brain Damage」と「Eclipse」の2曲は感動の大団円です。会場の盛り上がりもピークに達しています。サウンドも原曲に近い音作りで、SEもばっちり効いてます。ロジャーも曲中で不気味に笑ったりと愛嬌たっぷり?です笑
素晴らしい〆と言えるでしょう。演奏終了後、クラプトンがロジャーの名を紹介してライブは終了します。

なお、Pigs On The WingとIn The Fleshの曲間にカットがあるようですが、聴く分にはなんの問題もありません。またNobody Homeの40秒過ぎに一瞬ノイズが乗ります。欠点らしい欠点はこのくらいでしょうか。


そして冒頭で述べたようにこの音源は複数のブートレーベルがリリースしています。最初に発売したのは、西新宿BFでおなじみ、クラプトン専門レーベルであるMid Valley。こちらは6800円と割高ですが、スリップケース付きの厚型プラケースにプレスのピクチャーディスクでカードが2枚付いているようです。もうひとつはHighlandレーベル。こちらはプログレ系のバンドを中心にリリースしているレーベルですが、CD-Rでのリリースです。基本的にこっちは無視してしまって良いでしょう。

ちなみに自分が今回購入したSigmaレーベルの本タイトルは、ナンバリング入りステッカー付のプレスCDで3800円でした。しかもおまけとして、同ツアーにクラプトンが参加した最後の公演である、1984年7月31日のカナダはケベック公演を業務用のタイムカウンターが入った状態でプロショット収録したDVD-Rと、2004年のスマトラ沖地震のためのチャリティー番組で、ロジャーとクラプトンが共演して「Wish You Were Here」を演奏した際の番組リハーサルを収録したDVD-Rがもう1枚付いてきました。ケベック公演の画質はお世辞にも良いとは言い難いですが、このツアーのプロショット自体が他に存在しないと思われるので、30分ちょっとの収録とはいえ貴重です。『ヒッチハイクの賛否両論』の曲では、演奏に合わせてバックスクリーンに様々なアニメーションが投影される様子も確認できます。そして、2004年のチャリティー番組のリハーサルを収録したもう1枚のボーナスDVDは、冒頭で所々音声のみの収録になっているところが少しありますが、基本的には良好な画質と音質で、途中で演奏を辞めてしまったテイクも含めて、計5回ほど演奏が試みられている様子がプロショットで捉えられています。中にはイントロのワンフレーズだけでロジャーが演奏を止めてしまったりするテイクもあり、寡黙に引き続けるクラプトンとの対比が印象的です。またこの二人、リハ中ほとんど口を利いていないのですが、最後の方でノってきたのか、ちょっとジャムっぽいことを一瞬やろうとしたりしていて、よく見ているとなかなか面白いですよ。

というわけで、限定生産ではあるものの、より安価なのに同じくプレスCDで、しかもおまけも充実しているので、もしSigmaとMid Valleyどっちかで迷ったらSigmaレーベルの方をお勧めしておきます。ジャケもよりセンスがあるような気もしますし。とはいえ、どちらも大手なブートレーベルなので、Mid Valley版でも買って失敗したと思うことはないかと。フロイドファン、クラプトンファンともにおすすめですよ!^^


 「Lunatic Rave」(Mid Valley版のジャケです)